科学技術の進歩と向き合う
トレジャーDNA
世の中の変化については、少子・高齢化に代表される社会の変化が指摘されますが、同時に、この1年、もっとも驚いたのは、AIの活用など科学技術の発達のスピードが以前と比べて飛躍的に加速していることです。
ただ発達の中には、未知のリスクが潜んでいることがあり、注意が必要と思っています。
素材として、最近のDNA研究をとりあげます。
NHKの「シリーズ、人体」これは、いつも見応えがあります。
テーマは、遺伝子「トレジャーDNA」。
遺伝子は、体にとって必要なものを作り出す「設計図」の役割を果たしている。それ以外の98%のDNAは、これまで体をつくる設計図の働きがないため「ゴミ」と言われてきた。
① しかしDNAの解析技術、スピードが進化し、これまでゴミと呼ばれていたDNAに「私達の姿形、性格、才能など様々な個性を決める重要な情報」が潜んでいることが分かってきた。
② さらに98%のDNAの中には「病気から体を守るDNA」も見つかってきた。
→たばこから肺を守る力を高めるDNA(肺の炎症を抑える)
→がんを防ぐ力を高めるDNA
→アルツハイマー病を押さえ込むDNA
③ さらにDNA研究 出生のとき両親から半分ずつDNAを貰うだけでなく、必ずおよそ70個ほどの新たな突然変異が生じることが分かってきた。
この変異は両親にない全く新しい能力をもたらす可能性がある。
例えば遺伝病は、ある1つ遺伝子に変異があると必ず発症する病気だとされてきた。
調査の結果、遺伝病の原因をもっているにもかかわらず、発症していない人がいる
これらの人たちは、遺伝病の発症を押さえ込むなんらかのDNAを持っている可能性がある
それを元に薬や治療法を見いだすことが出来れば難病に苦しむ人を救える(バラ色の社会)。
④ そうすると病気をふせぐ遺伝子 コントロール出来ないか。
そのスイッチの数が約2万個あることが分かってきて、このスイッチをOff、ONをコントロール出来ないか。
なぜ、オンになるのか、オフになるのか、メカニズムが明らかになってきた。
がん患者のがんを抑える遺伝子に働きかけ DNAスイッチをオンに出来れば良いのだが、オフになっている患者のDNAを観察するとDNAメチル化酵素ががんを抑える遺伝子をぐちゃぐちゃにしていた。このDNAメチル化酵素の活動を抑えDNAスイッチをオンにすればガンの活動を抑えることが出来る(ここまで分かってきた)。
(未知のリスク)
それでは、この話はバラ色で終わるのか。
突然変異がもたらす副作用、リスクについて十分な研究がなされていない。またこれらの科学技術の使い方についても倫理の観点から社会内での合意形成を図る必要がある。
ロシアのソユーズで1年近く滞在した宇宙飛行士のDNAスイッチ を見たところ、宇宙にいる間にDNAのスイッチ変化は、9000以上認められた。
放射線が降り注ぐ宇宙空間で、DNAの損傷をさけるために地上では考えられない変化が起こったと考えられる。
このことの影響について、あるいは突然変異から生ずる未知の毒性 やアレルゲンの影響などの研究も不十分である。
使い方や方法に間違いがあると大変なリスクを背負うことがある。
遺伝子組み換え食品の問題、以前は食品に遺伝子組み換えをしたか どうかの表示がなされていたが、最近ではマスコミも関心を示さない。
EUでは、遺伝子組み換え食品の扱いに慎重だが、アメリカ、豪、南米などは比較的ルーズ。
使い方については、簡易検査キットなどの普及により優性遺伝的思想が蔓延してこないか等の問題を危惧する。
* DNAはデオキシリボ核酸といいデオキシリボースという物質を含む核酸という意味。
* デオキシリボースと塩基が結合しているのがDNA 塩基配列には遺伝情報を持っている部分と持っていない部分があるが、持っている領域を遺伝子と呼ぶ。つまり遺伝子はDNAの一部1.5~2%にすぎない